学童保育の今／中 「全児童対策」 生活の場遠く

　学童に似た事業に、すべての小学生に多様な遊びの場を提供する「放課後子供教室」があります。一部の自治体では毎日教室を開いて学童のような機能をもたせ、待機児童の数を抑制してきました。共働き家庭の子の生活リズムを損なっていないか、懸念もあります。

・「放課後教室」拡大

　横浜市立荏田南小で開かれている放課後キッズクラブ。市の放課後対策の事業で、市内に157カ所(2016年4月)あります。運営するのは、地元で自治会活動を続けてきた横手美枝子さん(65)ら。7年前に放課後の遊び場「はまっ子ふれあいスクール」(はまっ子)を始め今年度から、午後7時まで開く市の「キッズクラブ」に転換しました。

　昨年、下校したはずの1年生の男の子が「家にだれもいなくてこわい」と戻ってきたのがきっかけでした。横手さんは自治会の仲間に助けを求め、男の子を自宅に送り、親の帰宅を待つことができました。「家庭の事情で学童に登録せずカギっ子になる子もいる。地域の自分たちで見守ろうと思いました」

・親の就労問わず

　共働き家庭が増えてきたため市は、約230カ所あった「はまっ子」を、あらゆる子を受け入れる「キッズクラブ」に切り替えています。キッズクラブは、学区内の小学生が午後5時までいられる(年500円)▽共働き家庭の子が午後7時まで利用できる(月5,000円)−−2通りの形態があります。

　市内には、共働き家庭やひとり親の子らを預かる学童も220カ所以上。市は公営の学童をもっておらず、多くは父母会が民家やビルの一室を借りて運営します。物件を探すのも、スタッフを探して雇うのも、親たちの仕事。賃料があるので、利用料は月2万円程度と高めになります。保護者の思いは複雑です。仕事と育児に、学童運営の苦労が加わります。キッズを拡充する市に対し、学童にもさらなる支援を、と疑問視する声があります。

　会社員の女性(52)は3年前に長男が小学校に入ったとき、学童に登録しました。翌年は学童の役員として、指導員の採用や帳簿の整理に追われ、わが子とゆっくり話す暇もありませんでした。長男は3年生で学童を退所しました。その後、放課後子供教室に時々通ったが、100人近い子がいて「落ち着かない」と続きませんでした。

　「誰でも参加できるはまっ子やキッズは、大人数になりがちな遊びの場。宿題をしておやつを食べて、生活の場となる学童とは違う。昼間の学校と同じ場所にずっといるのもどうか……」。市の事業に、女性は懐疑的です。市は「(学童は)運営、利用料とも保護者の負担が大きい。学童を否定はしないが、施設の確保に苦労する都市部では難しい」(放課後児童育成課の斎藤紀子課長)との考えだ。

・国も「一体型」で

　すべての子を対象とする放課後子供教室は“全児童対策事業”とも呼ばれます。03年に公設の学童保育を廃止した川崎市をはじめ首都圏を中心に広まりました。学童は厚生労働省の補助事業ですが、全児童対策事業は多様な遊びの場を提供する、文部科学省の「放課後子供教室」。おやつの提供がないなど、働く母親たちから不評でした。

　国は14年の「放課後子ども総合プラン」で「19年度までに30万人分の放課後児童クラブを新たに整備」を目標に掲げます。うち1万カ所以上を学童と放課後子供教室の一体型で実施する、としています。学校の空き教室を活用するため、移動がなく安全だというがプランには「余裕教室を徹底活用」とあり、施設整備のコストを抑える狙いもあります。

・「安心できる場を」

　いまの全児童対策事業は、横浜市の「キッズ」のように、一定条件を満たせば夕方以降の預かりにも対応するようになりました。だがおやつの提供は、午後5時以降と遅いところも多い。出欠の確認など共働き家庭の子の生活にどこまで対応するかは、自治体により開きがあります。

　東京都江戸川区の女性医師(52)は4年前、当時3年生の長男が利用していた放課後事業で、補食(おやつ)を打ち切るとの通知を受けて驚きました。帰宅は早くて7時すぎ。空腹で長男はもたないだろうと思い転職も考えました。週数回、知人の助けで乗り切ろうとしましたが、長男の食生活のリズムが乱れ1カ月後に利用をやめました。その後も他の保護者らと区に働きかけ、今年度から各家庭の食品持ち込みが認められました。ですが、他の地域も調べるうちに、区の事業そのものに怒りを感じたといいます。

　1年生の5月、長男に首ふりやまばたきのチック症状が表れました。特定の子にいじめられているとわかり、指導員に配慮を頼みましたが、「一人だけ見ているわけにいかない」とそっけなかったそうです。「学校でいやな目に遭い、ずっと抱えこんでいる日もある。安心できる場所で見守られながら適切な時間帯におやつを食べることはとても大切。区のやり方はすべての子に、と言いながら、子どもに必要な福祉を削っているのではないか」と心配します。

放課後子供教室

　異学年の交流や豊かな体験を掲げる文部科学省の事業で、児童館や学校の施設で地域住民の協力も得ながら工作やスポーツ、伝統芸能など各種プログラムを提供します。2011年度は約9700教室あり、昨年度は1万4,000教室を超えました。川崎市のように公設の学童を廃止して毎日開催する自治体もあり、「全児童対策事業」とも呼ばれます。背景には安全な遊び場の減少や、就労に限らず子どもの預け先を求める家庭の多様化があります。07年に厚生労働省と文科省の双方が補助する放課後子どもプラン推進事業が始まり、学童保育と「子供教室」を一体的または連携して整備する流れが加速しました。