阿部裕子の絵本だいすき ぞうきばやしのすもうたいかい /千葉
のこった のこった 誰の勝ち?
暑い夏八月も終ろうとしています。しとしと梅雨はどこかにいってしまって、あっという間に夏に突入です。海の日という休日ができて、学校の夏休みは早くなりました。暑さのなかにゲリラ豪雨があったり、日本の自然界もなんだか以前と様子が違ってきているように思います。
ある日セミの合唱が突然聞こえてきました。夏到来です。でも、そんな夏休みのなかでちょっと寂しいのはセミ取りの子どもたちの姿が近年見かけなくなってしまったことです。カブトムシも買うものになっています。かなり郊外に住んでいたり、山村に知り合いがあったりするとカブトムシなどをもらえて、飼っている子どもがいますが、“餌は何?”と聞くと“ゼリー”との答えが多くてちょっとがっかりします。
『ぞうきばやしのすもうたいかい』
△出典:amazon.jp
雑木林のなかはにぎやかです。何がはじまったのでしょうか。本をひらいてみると切り株があってなにやら昆虫がいます。まわりにもチョウやトンボが飛び交っています。「相撲大会」が始まるようです。いちばんはじめはカナブンとタマムシ、“みあって みあって”“のこった のこった”おしだしでカナブンのかち!つぎはダンゴムシとカマキリ、どっちが勝った?これは新しい手です。ダンゴムシがカマキリにしがみついたものだからすっかり驚いたカマキリはしりもちをついてしまって、“ダンゴムシの勝ち”こんな調子でオサムシとカメムシ、ミドリシジミとオオムラサキ、クワガタとカブトムシの大勝負、カミキリムシとミンミンゼミと森の相撲大会は続きます。
ところで読んでいてちょっと変だとおもいませんか。取り組みの相手は現実ではありえません。オサムシとカメムシはどちらも臭い匂いをだしておたがいの匂いでひっくりかえって“ひきわけ”どの取り組みも勝負も本の中でしかできません。けれどとても精密に描かれた絵は現実のことのように思われます。昆虫の生態がおもてだけでなくうら側までもしっかり描かれています。姿だけでなく色から艶まで、ひっくりかえった足のようす、長いひげ、手描きなので立体感があります(あまりに写実的なので虫嫌いの人にはきびしい絵本かもしれません)。
絵本はなんといっても絵を見る楽しみがあります。では、文は何のためにあるのかという問いにこの絵本はしっかり答えてくれます。文中“みあってみあって カナブンのかち”ページをめくるとダンゴムシとカマキリの勝負の絵、“みあってみあって ダンゴムシのかち”声に出して読みながらページをめくると文が絵を動かしているのがわかります。幼い子どもたちがイメージをひろげていける絵本作りがされていることがよくわかります。
できれば本物を観察して飼ってみたい、これは子どもだけではなかなか難しいのでおとながいっしょにできると良いと思います。