保育ニュースまとめブログ

保育に関連するニュースや記事をまとめたブログです。保育士さんや幼稚園教諭さん、子育て中の保護者の皆さん、保育に関心をお持ちの方々にぜひ読んでいただきたいです。

「預け先が無い」 自ら保育園をつくった母

 待機児童の増加が深刻な問題となる中、自ら保育園をつくった母親がいます。目指したのは、“保育士さんにもやさしい保育園”。待機児童対策の切り札になることも期待されている保育園とは、どのような所なのでしょうか?

■「自分でつくった方がいいんじゃないかって」
 東京スカイツリーの近く東京・墨田区の住宅街。道路に面したマンションの1階に保育園があります。なかに入ってみると、0歳から2歳の子どもたちが元気に遊んでいました。この保育園をつくり、経営しているのは宮村柚衣さん(35)。きっかけは、自分の子どもが保育園に入れなかったことでした。宮村さんはこう語ります。
 「ずっと行政の文句ばかり言っていた。うじうじと。だんだん文句を言っている自分が嫌になってしまって、そこまでうじうじするんだったら、もう自分で(保育所を)つくった方がいいんじゃないかなと思って」

■夫のアドバイスが後押しに
 行政書士の事務所で働いていた宮村さんが、出産を機に退職したのは4年前。その後、2人目の子どもが1歳になったのを機に働こうと保育園に申し込んだものの、想像以上の厳しさでした。そんなとき、宮村さんは夫からこうアドバイスされたといいます。
 「(夫は)『自分でやったほうが向いていると思うよ』って」
 決断してからは、子育て支援団体に加わって母親のニーズなど情報を集め、保育園経営の仕組みも学びました。部屋の改装や家賃などの費用、約1,500万円は、独身時代から貯めたお金と借金で捻出。 採用したての保育士と家具を組み立てるなど、自分たちで作りあげました。

■愛情あふれる“茶の間”をイメージ
 そして、決断から8か月後の2014年10月、ついに開園。田舎の愛情あふれる保育を目指して“ちゃのま保育園”と名付けました。宮村さんは、自らつくった保育園のこだわりをこう語ります。

「これ、こだわりです。墨田区で唯一窓があるんですよ。調理室。今日の給食何かな?って見られるんですね。茶の間は横に台所があって、おいしいご飯、みんなで食卓を囲むというのが基本になってるのかなと」

■保育士の働き方に余裕を
 園長を含む8人の保育士は全員が正社員。この保育園は国の基準を上回る人数の保育士を配置しています。“手厚い保育”に加えて、過酷で辞める人も多い保育士の働き方に「余裕を持たせたい」との思いからでした。短時間勤務を認め、シフトを工夫したため、保育士不足の中でも保育士がすぐに確保できました。
 退職後、数年のブランクのあったベテランや、3人の子育て中の園長もいます。この保育園について園長はこう話します。
 「家庭の事情にあわせた勤務にしてくれるので、他の園よりかは働きやすい」
 そして、若い保育士からもこんな声が――
 「他の保育園では(休みが)とれないと保育士の友達から聞きますけど、ここはそういうのはまったくない。全然、休んでます」
 宮村さんは、夫の収入で生活できるため、経営者としての給与はゼロにして、その分、保育士の給与に回しているといいます。当初は保育士が多いこともあり、経営は赤字でしたが、補助金の得られる認可保育所になったことで赤字ではなくなりました。

■保育士の希望にできるだけ応える
 取材したこの日、子どもたちは公園に散歩へ出かけました。保育園を始めた当初、保育士が提案した砂遊びの遊具が10人分のセットで2万円と聞いて驚いたが、思い切って購入したといいます。
 「本当にもう、えいやっていう気持ちで(高いのを)買ったんです。そしたらもう、保育士さんはすごい喜んでくれて」
 保育士の提案でそろいの上着も購入。経営は楽ではないが、保育士の希望にはできるだけ応えるようにしています。宮村さんはその思いをこう語ります。
 「保育士さんがやりたいこと、働きやすい環境を設定する。それが私の使命。保育士さんがニコニコしたら子どももニコニコしますよね。子どもがニコニコしたら保護者がニコニコしますよね」
 そして、保護者からはこんな声が聞かれました。
 「お母さんがやっているからこそ、安心できる環境、基本理念があるのかな。いい点が多いと思います」

■妻の挑戦を応援し続ける夫
 午後6時すぎ、宮村さんは経営者から母親に戻り、子どものお迎えに。宮村さんの保育園では2歳までしか預かることができません。そのため今は、4歳と3歳になる2人の子どもは別の保育園に通っています。
 会社員の夫・崇之さんは、夕飯の支度をするなど、宮村さんのチャレンジを応援し続けています。
 「嫁さんを助けていくことが、それ(待機児童解消)につながればいいかな」

■待機児童対策の切り札“小規模保育”
 宮村さんの保育園のような“小規模保育所”は、定員が19人以下と少なく、大きな土地がなくても一定の条件を満たせば“認可”が得られます。そのため、待機児童対策の切り札とされています。こうしたこともあり、宮村さんの元には最近、「保育園をつくりたい」という相談が来るようになったといいます。

現状の制度のままで、質の高い保育を行うには限界があるとして、宮村さんは保育士の賃金や働く環境を変えるために、行政のさらなる支援が必要だと考えています。
 「自分の理想とする保育園をつくりたい方のサポートをしたい。福祉にちゃんと思いを持った方の保育園を増やしていただきたい」
 待機児童対策の多くのヒントが詰まった宮村さんの挑戦は続きます。